新聞 才能は生まれか育ちか 遺伝、環境、努力、双子1万組を調査した答え

※遺伝と環境の関係について調べている行動遺伝学者の安藤寿康(じゅこう)・慶応大名誉教授

1万組超の双子を調査→学力、体力、性格、生活習慣……、様々な項目で一卵性の2人の類似性と二卵性の2人の類似性を調べ、両者を比較することで遺伝の影響が大きいのか、環境の影響が大きいのかが推察できます

☆遺伝子の一致度は一卵性の2人が100%

☆二卵性の2人は異なる

環境は、一卵性の2人も二卵性の2人も同じ家庭で育ち、中学校ぐらいまでは同じ学校に通うことが多いので、ほぼ同じ。個別の事例は様々ですが、大規模調査で一卵性と二卵性がどの程度違うかを数値化することで、様々な分野で遺伝の影響がどの程度なのかが分かってきました

☆身長や体重→一卵性の一致度はかなり高い。二卵性は2人の数字のバラツキが大きい

同じ家庭で育つということは食事もほぼ同じものを食べているのにこの違いが出るのですから、身長・体重は環境よりも遺伝によって決まる要素が大きいと思われる

☆IQテストによって測られる知能→一卵性は児童→青年→成人と成長するにつれて一致度が高くなる

☆IQテスト→二卵性は逆に低くなっていきます。これは、幼少の頃は親や家庭の影響が大きいものの、自立していくにつれて本来の遺伝的な素質が大きくなっていくからと思われる

「知能については欧米の研究でここ最近、学力に関する遺伝子配列の解析が進んだことで、かなり分かるようになってきました。生まれた段階で、遺伝子配列を調べると最終学歴がどの程度になりそうかがある程度分かるレベルにまでなってきています」

☆運動や芸術といった他の才能も生まれた段階で向き不向きが分かるのか?→統計学の観点でいうとはっきりしたことは言えません。知能に関しては国勢調査の質問事項に最終学歴がある、各種のIQテストがある、といった形で多くのデータがある。しかし、運動や芸術となるとデータが大幅に少ない

☆「こういう話をすると生まれながらに宿命のようなものが決まっていると思われがちなのですが、そうではありません。遺伝率が高いものでも、100%ではありません。遺伝の要素が強い体重だって、暴飲暴食をすれば増えるし、過度なダイエットをすれば減る。向き不向きのレベルは存在しますが、ブレがあるのです」

初期段階で能力値に差があり、成長に伴って各種の能力値の伸びがタイプによって異なるという点では確かにそうです

☆ゲームでは能力の上限値が決まっていると思いますが、人間の場合は能力の上限値が遺伝によって決まっているという証拠は得られていない

☆ゲームなら最初から能力値が設定されている(攻撃力や防御力など)→人間の才能は何らかの環境にさらされ知識や技能を学習する過程で作られていきます

☆天才と呼ばれる人の学習曲線→スタート地点が高くて伸び代も大きい、そんな向いているものが幼少の頃に見つかり、他の人よりも膨大な時間をかけることで知識や技術が身につく、これが天才と呼ばれる人の学習曲線

☆遺伝子の組み合わせはランダム→確率的には両親の平均値となることが多いので『この親にしてこの子あり』も正しいのですが、『トンビがタカを生む』もまた正しい

☆そのランダム性ゆえに、一つと思われる能力の中でも様々な要素がアンバランスな形で組み合わさっていることもある→リズム感は良いけど音痴、鑑賞は好きだけど実演は苦手といったような

☆好きだけど上達しない、好きではないけどやらせてみたら人並み以上にできてしまうといったことも起こる

☆『好き』に加えて『できる』の組み合わせが天才の条件とも言えますが、入り口は結局は『好き』ということです。『好き』だけど『不向き』の組み合わせだったとしても、一流にはなれなくとも良きサポーターになれ仕事でも趣味でも生かせる才能になるでしょう。『好き』はとても大事な出発点

☆眠った才能がある可能性もありますが、様々なジャンルの習い事や体験をすれば何かに引っかかる、というのは違うと思います→水遊びをしただけでも、水泳に興味を持つ人がいれば、魚に興味を持つ人がいて、浮力や水流に興味を持つ人もいる。この時点で既に才能の現れがあり、興味が奥深く連鎖していくことが才能の成長なので、刺激や特別な体験が多ければよいというものではありません

☆虐待を受けているなどの著しく制限がかかった環境だと本来の才能が発揮されないことがあります

☆目的意識がなく巨大なショッピングモールに行っても、何を買えばよいのか分からないこともありますよね。逆に小さな雑貨店の方が自分が欲しいものが分かりやすいこともあります。ないもの探しをするよりも、普通の生活の中で向き不向きをはっきりさせる方が現実的

☆仮に何らかのすごい才能があったとして、その才能が幸せや成功に結びつくかどうかはまた別問題です。『不遇の天才』の言葉があるように、成功は時代や社会の評価軸によって変わってきます

☆遺伝子についてかなり分かってきた現在においても、遺伝子の配列を見てこの組み合わせがあるからこの人は天才なんだということは分かっていません

遺伝を研究することで何が分かったのでしょうか?→エジソンの言葉、天才とは99%の努力と1%のひらめき。努力の大切さを強調する言葉として知られているが、1%のひらめきがないと99%の努力は実を結ばないのが真意という説もある。私もその説の方を支持します

☆個人の性格的な要素として、何事にも目的意識を立てた考えをする、つまり『努力ができる』ということにも50%ぐらいの遺伝率があり、努力ができるというのも才能の一つ

ナチスが優生思想で民族虐殺を行ったこと、日本社会では平等の考え方が強いことで、遺伝による能力差の議論は長らくタブー視されてきた

☆平等で頑張り次第で能力には無限の可能性があるという考えだと、世の中にある様々な差は『頑張りが足りない』『努力が足りない』ことが原因とみなされがちです。これはこれで苦しいものがあります

「遺伝子は運命を決定づけるようなガチガチのものではない。しかし、頑張りや努力ではいかんともしがたいことがある根拠を遺伝に求めるのは悪いことではないでしょう」

〇コメント

本田由紀(東京大学大学院教育学研究科教授)2024年1月8日12時17分 投稿

遺伝率を計算する際には、一卵性双生児間の相関係数をp1(実測値)、二卵性双生児間の相関係数をp2(実測値)とし、遺伝率Xと共有環境の影響YについてX+Y=p1、0.5X+Y=p2という連立方程式を解いてXを求める。この想定において、一卵性と二卵性の間でYを共通としてよいとする前提を含め、かなり強い仮定を置いて遺伝率は計算されていることには留意が必要である。「××については遺伝率〇%」という知見は一人歩きしがちだが、対象の年齢などによっても結果は異なる。そして遺伝率が100%であるような事項もまたほぼ存在しないので、依然として環境は重要である。「親ガチャ」か努力か、といった単純化した議論(この記事はそうではない)が不毛であることは指摘しておきたい。

天野千尋(映画監督・脚本家)2024年1月8日17時11分 投稿

努力したくても出来ない人が「もっと努力しろ」と責められたり、自分を責めてしまうような社会は良くない

綿野恵太(文筆家)2024年1月8日10時0分 投稿

補足。「親ガチャ」というスラング自体には「遺伝」の問題だけでなく、本人が目一杯努力できるための「環境」(教育格差、ヤングケアラー、虐待……)の問題意識も込められているはずなので、「親ガチャ」か努力か、といった単純化した議論では全くない

おおたとしまさ(教育ジャーナリスト)2024年1月12日15時52分 投稿

拙著『学校に染まるな! バカとルールの無限増殖』→スタート地点にたくさんの車が並んでいます。でもよく見てみると、そこに並んでいるのは、世界最速クラスのF1から、耐久レース用のレーシングカー、フェラーリやポルシェのようなスポーツカー、一般的な自家用車、四輪駆動車、トラック、ダンプカー、ブルドーザー、ショベルカー、農作業用のトラクターまで、多種多様です。これで周回のスピードを競って順位をつけたって、F1とトラクターのどちらが偉いかなんて比べられませんよね。でもそれと同じことを、学校ではやっています。学力というたったひとつのモノサシで子どもたちを序列化し、社会に出て行くときの労働力としての値札をつける機能が現在の学校にはあります。たまたま学業に有利な遺伝的特性をもったひとが圧倒的に得するしくみです

朝日新聞デジタル

有料記事

※2024年1月8日 10時00分の公開記事

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